陽炎・稲妻・水の月 2





『キッドから予告状が届きました!!』

テレビから聞こえてきた、アナウンサーの興奮した声。
はすぐさまそれに全神経を集中させた。





「…明日か…」
テレビで流れた内容を紙に書きとめ、はそれをしばし眺めた。
「えーと…『明日の晩九時、田崎家の“闇色の月”を頂きに参上する  怪盗キッド』…ね」
ぱふっ、とベッドに寝転がりながら、頭の中を整理する。
(田崎家…確か今、特設会場つくって、自慢の宝石の展覧会やってたっけ…)
そこの目玉となっているのが、『闇色の月』。漆黒の色をしたビッグジュエルで、昨日辺りも誰かが見に行ってきたと自慢していた。
「さて、と」
むくり、と起き上がり、服のしわを伸ばす。
「いっちょ行ってみますか」
それほど離れた場所ではない。は制服のまま、鞄を掴んで下見に出かけた。





「入場料!?」
「はい。学生の方は1500円となっております」
(映画見られるよ…なんだその値段は)
金持ちなんだから、もういいだろうに。この上まだお金をとろうという強欲さに少し呆れた。
「やっぱいいです」
本当は中を見ておきたかったんだけど…
未練たらしく振り返りつつ、会場を後にする。仕方なく、会場の周りを見て回ることにした。
「近くに高いビルは…いや待てよ、毎回飛んでくるとは限らないし…や、それより盗った後のことを考えるべきかな…」
成功することを前提で考えていると知ったら、中森警部は怒るだろうか。そんなことを考えながら歩いていると、前から似たようなことを呟きながら歩いてくる人物を見付けた。
「いや…今夜は風も強く夜間飛行には向いていない…となるとあとは…」
その姿は、日頃見慣れたものだった。
「白馬くん!」
「え?あ…さん!?」
前から歩いてきていたのは、同じクラスの白馬探。確か、彼もキッドを捕まえたいと思っている人物の一人だ。
「どど…どうしてここに?」
わたわたと白馬が慌ているのには気付かず、はにやりと(心の中で)笑った。白馬は警視総監の息子だ。これは…イケる!
「ね、白馬くん!」
「え?」
「私もキッドを捕まえたいと思ってるの!今夜…一緒にいてもいい?」
「えぇっ!?」
(それは…色々マズいような気もするんだけれど…でもさんと…)
密かな想い人に、きらきらとした瞳で見つめられれば断れるはずもなく。
「あ、あぁ…いいよ」
気付けばイエスの返事をしていた。
「やった!白馬くん大好き!」
「えぇっ!?」
またもや慌て始めた白馬のことは全く眼中になく、の視線は既に明後日。
「よーし…絶対捕まえてやるんだからー!!」





「…何で白馬のヤローとがつるんでるんだよ」
スコープから目を離し、おもしろくなさそうに呟く人物が一人。
言うまでもなく、快斗である。
妙にむしゃくしゃする気持ちを押さえつつ、スコープを放り投げて横になる。これ以上見ていたくなかった。
「『絶対捕まえてやる』ねぇ…」
寝返りを打ち、空を見上げる。
「…捕まえられるものなら、捕まえてみろよ」
挑戦的に言い放った顔は、自信に満ちていた。





決戦は明日。

戦いの火蓋は、すでに切って落とされていた。



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2004.5.3



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