「予告まで五分を切った!全員持ち場に付け!!」 現場に、ぴりっとした空気が張り詰める。は、小さく息を呑んだ。 「はぁ?一緒に警備をする?」 「はいっ!」 呆れ顔の中森警部から目をそらさず、はきりりとした顔で言った。 「駄目だ駄目だ!ここは子供の来るところじゃない!」 そう言われるであろうことは承知の上である。は、ちらりと白馬を見やった。 「…僕からもお願いします」 視線を受け、白馬は一歩前に出た。そう言われれば、中森としては立場的にも断るわけにはいかない。 「〜〜〜無茶は、するなよ…」 「はいっ!」 それが、数時間前のことだった。 『目立たないように、着替えた方がいい』 白馬にそう言われ、警備員の服を借りて着たはいいものの、サイズはでかいわ身長は低いわで、逆に目立っているような気もする。横一列に並んでいても、そこだけぽこんとヘコむのだ。 「…白馬くーん、これ、逆に目立たないかな」 「え?」 急に話しかけられたせいだろう。間の抜けた返事をしてしまったことに、本人も少々焦ったらしい。 「あ、いや、そんなことないと思うけど…不満かな?」 「わ、わっ、そういうんじゃないよ!」 にこりと笑って手を取られたら、でなくとも慌ててしまうだろう。真っ赤になってあわあわと手を振っていると、急に照明が落ちた。 「なんだ!?まだ予告前だぞ!」 焦った中森の声が響き、周りは急な事態にざわめき始めた。 『あー、あー、中森警部?ちょっとワケありで、予告より早いですが参上しました』 「なにぃー!?」 「…はぁ?」 照明を付けろ!電気室はどうした!などと怒声が響き渡る中、はふと右側に気配を感じた。 「…?っ!キッ…」 声をあげようとした瞬間、ものすごい早さで口を塞がれた。 「…簡単に手ぇ触らせてんじゃねーよ」 「むーっ!むーっ!」 「?さん、何か…」 白馬がそう聞いて振り向いた途端、ぱっ、と手を離され、は力の限り絶叫した。 「キッドがでたーっ!!」 『なっ!?』 それと同時に明かりがつき、悲鳴が上がった。 「闇色の月が…!」 ガラスケースの中は、空になっていた。 「さん、怪我は…!」 「あ、うん…大丈夫だけど…」 『簡単に手ぇ触らせてんじゃねーよ』 …あれは、快斗?だとしたら、どういう意味…? 「…白馬くん、私、快…あ、じゃなくて、キッドを探してくる!」 「え!?」 騒然としている現場を後にして、は昼間見付けたマンション目指して走り出した。 「はっ、はっ、…っは、あーもうヤダ、なんでエレベーター止まってんのよっ…!」 それはセキュリティーのためだと分かっていても、つい毒付きたくなる。…30階の屋上目指して階段を上っていれば。 「あーもうやっと着いたしっ!」 ばたんっ、と扉を開ければ、夜空が目に飛込んでくる。 「…ここじゃ、なかったかな」 言って足を踏み出すが、ズボンの裾を踏んづけてコケた。 「〜ってー!あ、裾下りちゃってる…よっと」 裾を折るために座り込むと、ふっと影ができた。 「?」 疑問符を浮かべ、頭上を見上げる。…月を背負って、はためくマントは銀の翼。モノクルのせいで、顔ははっきり見えないが… 「! キッドっ!」 ばばっ、とその場を飛び退き、は慌てて体勢を整えた。 「…おや?撒いたと思ったんですけどね…」 カツ、と一歩寄られれば、その分下がる。言いようのないプレッシャーで押し潰されそうになりつつ、視線だけはそらさなかった。 一歩、また一歩。 少しずつ後ろに下がれば、当然… …ガシャッ! 背中に当たるのは、子供の身長ほどしかないフェンス。 (…どーしよう…) 逃げ場は、なくなった。 ---------------------------------------------------------------- 2004.5.3 → BACK |