「…とりあえず、まず一つ聞いていいか?」 「どーぞ」 快斗が、ジト目で睨みつつ聞いた。 「オメー、まさかとは思うけどあそこの鍵、昼に自分で開けといたんじゃねーだろうな…」 冷静に考えれば、開いているわけがないのだ。 …ぎくり、と。 が小さく身を震わせたのを、快斗は見逃さなかった。 「あのなぁ…オレが助けなかったらどうするつもりだったんだよ!?」 それを聞くと、はむっとした顔をして言い返してきた。 「快斗は捨て身タックルって知らないの!?」 「…ポケモンの?」 「違うわ馬鹿っ!」 ぷいっ、と顔を背け、ぽつりと小さく呟いた。 「…快斗なら、助けてくれると思ったから」 「…え」 「快斗なら、助けてくれると思ったからっ!はい以上終わり!」 (…どうしよう) すごく嬉しい。 それはつまり、「自分は信用されていた」、ということだ。飛び降りても助けてくれる、と。それを確信していたと。 …自分は、怒りたかったのだ。何やってんだ、と。 「なんか削がれちまったなぁ…」 「え?」 きょとん、として聞き返してきたに、ひらひらと手を振って答える。 「いや、こっちの話。…でも、とりあえずこれだけは言っとくぞ」 「な…なに?」 がしっ、と両肩を掴み、視線を外せないようにした上で快斗はに向かって言った。 「もう絶対危ない真似はするな。可能な限り助けてやるけど、お前がそんなんじゃあオレの心臓がいくつあっても足りねーんだよ」 真剣な快斗の気迫に押されていたが、はどもりながらも言い返した。 「…か、怪盗、キッドを捕まえるために、だったから…もう、そんなことしないけど!なんで快斗にそんなこと言われなきゃいけないの!?それに、そんな心配される理由は…」 「バーロ」 「な」 抗議をしようと口を開いた瞬間だった。 …ふわり、と。優しく抱きすくめられ、は言葉を失った。 「か…快、斗…?」 「お前が」 ぐ、と腕に力を込めて、静かに続ける。 「…お前が落ちそうになったとき、心臓が止まるかと思った」 「え…」 「全身の血液が一気に氷水になったみてーで…ほんとに、怖かったんだ」 耳元で聞こえる声は、本当に切なくて。は、小さく呟いた。 「…ごめん」 「でもよ!」 言って、ぱっと身を離し、再び両肩に手を置く。 「な、なに?」 「おかげで自分の気持ちに気付けたから、結果オーライだけどな!」 「へ…?」 にっ、と笑ってウィンクする。 「とっくに捕まってたみたいだぜ?、お前にな」 言うと、の顔がみるみるうちに赤くなっていった。 「なっ…なっ…」 「おー、真っ赤」 「…………キザ。」 なんとかそれだけを絞り出すように言って、はぷいっと後ろを向いてしまった。 「おーい」 「…キッドって、捕まらないもんだと思ってたよ」 「へ?」 熱を持った顔に、夜風が当たって気持ちいい。は、そのまま後ろを向いて続けた。 「なんていうんだっけ…そうそう、『陽炎稲妻水の月』だ。身軽で、すばしっこくて、捕えられないもんだって」 小さく苦笑する。そう、本当にそう思っていたのだ。 「…あっさり捕まったな」 「そうだね」 不思議だね。あんなに、遠いと思っていたのに。 「でも、それは…」 「え?」 ふわり、と目の前が白で覆われる。いつのまにか目の前にある快斗の顔に、は慌てて身を引いた。 「キッドじゃなくて、快斗だったからだろ?」 「…キッドも快斗も快斗でしょ?」 「いーや」 ばさっ、とマントを翻し、次の瞬間には見慣れた快斗の姿。 「今のオレは、快斗だよ」 (…やっぱり快斗だったんだよね…) 今更のようにそんなことを考えながら見ていると、ちょっとずつ離れていたの腕を快斗ががしっと掴んだ。 「うわっ」 「うわっ、てお前…なあなあ、オレのこと好きか?好きだよな?」 先ほどまでの怪盗っぷりはどこへやら、きらきらと子供のように純粋な瞳で見られては、…嘘はつけない。 「す…好き、だよ…」 「よっしゃー!!」 …捕まったのは、むしろ私かもしれない。 そんなことを考えながら、は再び赤くなった頬を慌てて手で覆った。 ---------------------------------------------------------------- 2004.5.7 → BACK |