初めて会ったのは、私が喚ばれて間もない頃だった。…いや、正確には「会った」とはいえないかもしれない。
私と一緒に喚ばれたあかねちゃんが龍神の神子で、私はさし当たってすることもなくふらふらとあちこちをさ迷い歩いていた。あかねちゃんは自由に動ける身じゃなかったし、私は1人で歩いても差し障りなかったから。
「娘」
「……え?」
不意に聞こえた声に、は足を止めた。どうやら、いつのまにかどこかの敷地内に入ってしまっていたらしい。
「ええと…私、ですか?」
「他にいないだろう。何をふらふらしているんだい?そのままどこかへ飛んでいって帰ってこないつもりかな」
…どきり、とした。
早い話が私は“選ばれなかった”存在で、京を救うのになんの助力もできない。常に八葉が守っているあかねちゃんとも違って、いつ怨霊に襲われて果てるかもしれない。…無意識の中に、このままどこかへ…という思いがあったのは否めなかった。
「…あは、は」
それに応えることはなく、笑って誤魔化す。そういえば着ているものも制服のままなのに、この人は不思議がらないのだなと逆に不思議に思った。
「……ここへ」
御簾の向こうから聞こえた、深く落ち着いた声に背筋が粟立つ。…姿は見えないのに、その目に惹き付けられているような錯覚に陥る。
「え……と、あの」
言葉を続けようとした途端、御簾の向こうから別の声がした。どこかひどく慌てていて、それに対応していた“その人”は穏やかにたしなめているようだ。
「すまないね、急用だ。また、いずれ」
「は、い…」
また会う、保障もないのに?
勢いで返事をしてしまってから、そんな風に思う。やがて御簾の向こうに人の気配はなくなり、はぽつんとその場に立ち尽くした。


刹那の邂逅は、

   永久にも似た瞬間の連続





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