にわかに周りが慌ただしくなってきていた。あと一枚だとか、四神がどうとか、言葉の端々を耳にすることはあったが全てを把握するだけの情報はなかった。
部屋の片隅に、確かな存在感を主張するまでになった文の山を見て、は僅かに眉を顰めた。…私はこれから、どうなる?
「神子様が京をお守りくだされば、様もご一緒に帰れるはずですわ」
いつぶりかわからないほど久しぶりに訪れた藤姫はそう言ってにこりと微笑んだ。…初めて会ったときに比べると大分やつれているように見えて、自分の預かり知らぬところではこんな小さな女の子までがつらい思いをしているのかと胸が痛んだ。
「…あかねちゃんに伝えてください。力にはなれないけど、応援してる。頑張って、って」
そしてあかねもまた同等、もしくはそれ以上の重荷を背負っているのだろう。
「まぁ…!きっと神子様も喜ばれます。確かにお伝えしますわ」
藤姫が去ってから、積み上げた文をそっと読み直してみる。…完全に読み解けたものなんてないに等しいが、それでもわかる。木蓮の人は、確かに自分を大切に思ってくれていた。
(…このまま)
なにもわからず知らず、この地を去るのだろう。木蓮の人とのやり取りも文で終わるのだろう。
「…姫君。」
「っ、」
突如かけられた声に、ばさり、と文を取り落とし、は息をすることすらできなくなった。…木蓮の、人。
「失礼していいかな」
「え、」
その言葉の意味をはかりかねている内にも、その人物は返事を待たずに入ってきた。
「会いたかったよ」
「………、」
たおやかに揺れる髪も、翠色の瞳も、牡丹の直衣も見覚えはなかったけれど。
その声と、身に纏う空気は間違いようもない彼の人だった。


突然の逢瀬は、永遠には

  ならなかった出逢いの始まり





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