「好きだって言えよ」
「……………何の話かな。」
ワインレッドの瞳が、つい、と睨め上げた。






「快斗ー、次の化学、移動教室だからね!青子先に行っちゃうよ!」
「おー」
やる気のない返事に、青子がむくれて教室を出ていく。それを確認してなお、快斗はぼんやりと前を見たまま机に頬杖をついていた。
「…呆れたな。中森さんがせっかく声をかけてくれているのに、それを無碍にするなんて」
「………重役出勤のオメーにどうこう言われる筋合いはねーよ」
人気のなくなった教室に、ガタンと椅子を引く音が響く。背後から聞こえた声に、快斗は振り向きもせずに応えた。
「今夜も誰かが予告状を出してくれていてね。その打ち合わせをしていたんだ」
トントン、と教科書を揃える音がする。恐らく、次の授業で使う教科書やらノートやらだろう。
「…………ゴクロウサマ。」
相変わらず覇気のない声で返し、ここに至ってようやく快斗は振り返った。
「……………白馬。」
「なにかな」
想像に全く違わず、化学の教科書一式を両手に揃えて持った白馬と目が合う。背もたれに肘を乗せ、どこか挑戦的な快斗の様子に何か感じたのか、白馬が手を止めた。
「…なにか、言いたいことでもあるのかい?」
その言葉に、快斗が机三個分をひょいと乗り越え、白馬の元へとやってきた。
「好きだって言えよ」
「……………何の話かな。」
唐突な快斗の台詞にも全く動じず、白馬は快斗を睨めあげ、ゆっくりと答えた。
「僕が好きなのはキッドだーとかなんとか面倒くさいこと言うのやめて、さっさとオレに好きって言っちまえよ」
「……何を言い出すのかと思えば、いきなりキッドは自分だという告白かい?」
「ちげーよ!そんな話はしてないだろ!」
ムッとしたように言った快斗に、白馬はふ、と微笑を浮かべた。
「冗談だよ。………だけど、わかってるだろ?」
「わかって……」
何かを言いかけた快斗の肩をぐ、とつかむと、そのままとんっと簡単に壁に押し付ける。
「っ……!」
「…わかってるだろ。」
紅い瞳に見えるのは、静かに燃える焔。
「互いが一番真剣にやり取りできるのが、どこなのか。」
「なっ、」
「僕は君と真剣にやり取りしたいんだよ」
それだけ言うと、白馬はぱっと手を離し、教科書を片手に「お先」と教室を出ていってしまった。
「……なんだよ、それ。」
ズルズルと壁に沿って座り込み、そのままうずくまる。
「それは…“本気のお付き合い”だって意訳してやるぞ、ニャロー。」
遠くでチャイムがなり始める。机の中から教科書を引きずり出して教室を飛び出しながら、快斗は今夜の作戦を練り直していた。
「〜〜〜くっそ、ぜってー言わせてやるからな!」


……そうして今夜も、二人は。




V  e  r  s  u  s  .


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